医者から告げられたのは、「右半身はもう動かないだろう」という残酷な現実でした。それは単なる不自由以上の絶望を意味していました。
私の妻は、私と同じ職人。理容師(床屋さん)だったのです。
「ああ、妻は二度と、ハサミを持てないんだ」
理容師にとって、手が動かないこと、そしてお客様と会話(コミュニケーション)ができないことは、そのまま「仕事ができない=理容師としての死」を意味します。カミソリも持てない。二度と、あのお客様の髪を切ったり、顔を剃ったりすることはできないんだと思いつめる日々でした。
ハサミが持てなくなったことで、仕事という名の日常だけではなく、「収入」という現実までもが音を立てて崩れていきました。
もし、このまま私が一人で支えきれなくなったら?
さらに、もし自分までもが何かの拍子に倒れてしまったら……?
「二人とも収入がゼロになる。共倒れになる」
これまで経験したことのない、底の見えないような「お金の不安」が夜も眠れないほど私を襲いました。「明日からどうやって生きていけばいいんだ?」という焦りと恐怖に追い詰められた瞬間でした。

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